2012年10月1日月曜日

第29音 小鹿田皿山の唐臼

小鹿田、と書いて「おんた」と読む。
これを読めるひとがどれくらいいるだろうか。
僕は、今回の音風景を集めるにあたって、はじめて知った読み方だった。
民芸の好きな人には良く知られた名前だそうだ。
なんでも、民芸の父、柳宗悦が「日田の皿山」という文章を残しているらしい。

音の舞台は大分県日田市。
四方を山々に囲まれた盆地で林業が盛ん、流れ込む川から水郷とも呼ばれるほど水が豊富であり、その水は天領の水としても有名だ。

小鹿田焼の里、皿山は、日田の市街地から北に向かって山間に入り、車で40分程度走った所にある。

たどりついた里は、山間の小さな集落であった。
そこかしこに窯元らしき看板と軒先、しかしとりあえず、一番上手にあるという小鹿田焼陶芸館に向かう。




陶芸館駐車場からの街並。
味がある。
それもそのはず、重要文化的景観、だそうである。




さあ、いってみよー☆




あれ?





・・・

なんちゅう間の悪い・・・



里を歩く前にまずは勉強と思ったが仕方が無い。
このまま、小鹿田焼の里をぶらりと歩いてみようじゃないか。

僕が行ったのは平日だったため、観光客がおらず閑散としている。


さてさて、今回の音風景、何の音かというと、焼き物に使う土を砕くための臼の音である。

焼き物の臼の音、と言えば、あれが思い出される。
第20音 伊万里の焼物の音





あれは観光客向けのハリボテであった。
だからなのか、今回も、あまり良い予感はしない。
そもそも最近の音あつめは、まるで期待していない(前回投稿参照)。

ところが、である。

歩いていると、音が聴こえる。
というか、実は、車を降りたときから、音は聴こえていた。
耳をすませば、縦横無尽に、里のそこら中からそれらしき音が聴こえてくるではないか。

私は興奮した。
音風景、久しぶりの(いや初めてか)大ヒットの予感である。


里を流れる水路を利用した唐臼が、そこらじゅうにある。
風景に馴染んで、生活の中の一部分のようでもある。
実際につかっておられるからか。

では、その音を動画でお楽しみください。



いかがでしたでしょうか、今回の音風景。
久しぶりにしっかりと音を堪能したあとは、小鹿田の里を歩いて、妻の土産に、気に入った大皿を買いました。








立派な登り窯もありました。
僕は一度窯焚きを経験しているので、これだけ立派な窯だと、大変な仕事になることが実感できます。



[音風景データ]
「小鹿田皿山の唐臼」
採取した日:2012年9月12日
場所:大分県日田市
採取難度:★☆☆☆☆

聴き方:行けば昼夜分たず、聴ける。

[周辺]
■リベルテ(日田市街)
日本で一番ちいさな映画館。情熱の館長、原さんのやろうとしていることは映画館経営だけに収まらず、シンプルな疑問から湧き出た希有壮大な人間の復興だ。リスペクトしてやまない。ちなみに喫茶部もあるので気軽に立寄れる。

2012年9月14日金曜日

第28音 観世音寺の鐘

2011年11月18日正午過ぎ、こぬか雨降る太宰府に、我々風夫婦は立っていた。
世に名だたる太宰府天満宮に来た、というわけではない。
数多の参拝客を尻目に我々が向かったのは天満宮のほど近くにある観世音寺。
そう、日本音風景100選のひとつ、観世音寺の鐘の音を聴きにきたのである。

なぜ18日か、というと、環境省のホームページに、毎月18日の午後一時に、観世音寺の鐘が打たれる、とあったからであった。

参照

この記述をみて、太宰府に18日に来れるよう、ツアーの予定を組んだのであった。

早速、観世音寺の境内を散策する。
何故かろくな写真がのこってない。

なぜぶれている。



道はぬかるんでいる。



ありました、梵鐘の看板。

しかし、肝心の梵鐘の写真がない。
なぜだろうか。

確かにそこに梵鐘はあったのだが。


まあ、そんな風に散策を繰り返していると、いよいよ午後一時が近づいてきた。
我々は梵鐘の前に陣取り、おそらく向こうの事務所と思われる建物から人が出てきて、鐘をついてくれるのだろうと思っていた。

一時になった。
誰も出てこない。

おかしいな?
雨だから、突かないのかな?
それとも18日じゃなかったっけ?

いや、確認しても18日である。
間違いなく、今日だ。


というわけで、事務所らしき場所に言って、ことの次第を確認する。




私「あの〜、18日の午後一時に梵鐘が突かれると聴いて、その音を聴きにきたんですが...」

事務所の人「へ?そんな決まりはありませんよ?」

私「へ?いや、確かに、環境省のホームーページにはそう書いてあるんですが」(といってホームページをみせる)

事務所の人「確かに、書いてありますね...ちょっと確認しますから、お待ち下さい」

(事務所の人、どこかに電話している。3分くらい、待たされる)

事務所の人「お待たせしました。確かに、過去にはそういうこともあった、とのことですが、今はついていないそうです」

私「ついてない!?ということは、音は聴けないんですか!?」

事務所の人「はい、すみませんが、音は聴けません。ですが、上の部屋にて、テープで録音したものなら流れてますよ」(ここは観世音寺の宝蔵庫であった)

私「テ、テープですか!?」

事務所の人「はい、入場料は500円です」


ここまで来て何もせず帰るのはいかがなものかと、500円払って、テープの鐘の音を聴いたのであった。

その音は確かに悪くはなかったが、いかんせんテープである。。。



その日の嫁日記はこんな感じだった。






それにしても、がっかりである。
またか、の思いであった。

日本最古の梵鐘である、そう頻繁に突くのは保全の観点からもよくないのであろう。
確かに情報も古かろう。音風景が策定されたのは、1998年のことである。

しかし、である。
少なくとも、ホームページの情報更新くらいはすべきだ。

私は激怒した。

観世音寺の鐘の音だけではないのだ。すでにこの世に存在しない音がいくつかある。「残したい」と銘打っておきながら、まるで残す努力のかけらすら見つけ出すことができない。なんのための、音風景100選なのか。ふざけるんじゃない。我々は、これみよがしにやっていると見せかけているだけのことのために、予算消化のために、血税を払っているのではない。

ぷんすかものである。
もーやんなった、ばかばかしい、こんな企画やめてやる!!!!


ここに来て、音をあつめての企画が危機に直面したのであった...


[音風景データ]
「観世音寺の鐘」
採取した日:2011年11月18日
場所:福岡県太宰府市観世音寺
採取難度:なし

聴き方:聴けません。テープなら聴ける。

2012年1月4日水曜日

第27音 えびの高原の野生鹿

2011年11月14日、冬の寒空の広がる中、我々は九州南部に広がる霧島山系の北部に位置する、標高1200mの宮崎県えびの高原にやってきた。

そう、音集め最難関のひとつと思われる、「野生鹿のいななき」を集めに来たのだった。

音風景はいくつかの種類に分けられる。あくまで己分類だが、人の営為が起こす「文化系」、日常生活から建造物まで我々を幅広くとりまくものから起こる「環境系」など。そのなかで、もっとも音集めが難しいと思われるのが、「自然系・野生動物編」だ。

「自然系・野生動物編」は、いつその音が聴けるかどうか分からないため、大変に難しい。長いときは一日以上時間をかけなければその音を聴く事ができないのだ。

今回の音風景を集めるにあたって、我々はそれなりに覚悟していた。なぜなら、相手は野生の鹿であるから、いつ鳴くか、またどこまで行けば聴けるのか、全く分からないからである。しかも季節は冬、そして今回の舞台は高原である。寒さも相当厳しいと思われた。我々は何泊かして、明け方に多いとされるいななきまで一睡もせず、まんじりとその鳴き声を集めるまで待つくらいの心持ちであった。



我々は鹿児島方面からえびの高原にはいった。着いたのは夕方五時前。早速周辺に聞き込み調査を開始する。手始めに、駐車場の管理人のおじさんに話を聞いてみる。

風夫妻「僕たち、野生の鹿のいななきを聴きにきたんですけど」
管理人のおじさん「あー、あれねえ、さっきも鳴いてたよ」
風夫妻「へ?このあたりで聴けるんですか?」
管理人のおじさん「うん、この辺ならどこでも聴けるよ」

あまりにもあっけない回答に逆にがっかりしてしまった。。。


というわけで、我々は車を止め、その辺りを散策することにした。すると、遠く山麓の向こうから、「キーン」という高い声が・・・これだ!!

というわけで、お聴き下さい。
日本音風景100選のひとつ、「えびの高原の野生鹿」であります。
(風の音と、風の声がうるさいので、音量注意!!)



(頻繁に鳴いているのですが音が遠いため聴こえにくいです。43秒あたりと、2分9秒あたりで聴こえます)



せっかくなので、我々はえびの高原で一泊することにし、高原に沈む夕日を眺めながら、宵闇に穿たれた月を愛でて、晩酌を楽しみ、就寝した。



朝、一番の寒さを感じながら起床し外に出ると、その冬はじめての霜が降りていた。11月に入ったばかりだが、標高1200メートルは流石に寒い!!



せっかくなので、朝焼けの中、えびの高原をトレッキングすることに。



トレッキングとは言っても、当時妊娠六ヶ月の妊婦も一緒なので、軽いコースを選択した。


舗装されていて、歩きやすい。
朝日の差す樹林の中をのんびり歩いて行くと、向こうに何かの気配が!
みると、なんと野生の鹿さんたちが団らんしていた!

せっかくなので、その様子を動画でご覧下さい。



この後も、なんども鹿さんたちとすれ違った。

また、えびの高原には大小合わせて三つの湖があり、そのどれもに朝日が映えて美しい。




妊婦にもさほど辛くなく、朝の散歩にはほどよい程度だった。


音も集めたし、散歩も気持ちが良いしで、すっきりした気分でえびの高原を後にすると、路上まで野生の子鹿さんがお見送りに来てくれた。




じゃあねー、と挨拶して、今回の音風景はこれにて終了。




[音風景データ]
「えびの高原の野生鹿」
採取した日:2011年11月14日
場所:宮崎県えびの市(えびの高原)
採取難度:★★★☆☆

聴き方:秋から冬にかけて、えびの高原にいけば聴ける。明け方がいちばん良いらしいが、基本的にはいつでも聴けるようだ。


[周辺]
■えびの高原
トレッキングが楽しい。運が良ければ、鹿に会える。高原にある駐車場は有料。

■白鳥温泉上湯
300円。露天風呂からえびの市が一望でき、素晴らしい眺め。お湯も少し温いが、まずまず。内湯も充実している。従業員の方々がとてもやさしい。